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東京高等裁判所 昭和43年(ネ)2902号 判決

理由

一、被控訴人がかねて知合であつた岩田から本件手形を受け取つたことは当事者間に争いがなく《証拠》を総合すると、被控訴人はかつて運輸省に勤務していたとき岩田の上司であつたこと、被控訴人は申請外岡本良男らとともに東伊豆観光開発株式会社と称する会社の設立を計画し、その資金を捻出するため、昭和四二年二月頃、岩田に対し融通手形の振出を求めたこと、そこで、岩田は控訴会社代表取締役として被控訴人に対し、同月二五日頃、満期までに被控訴人が控訴会社にその支払資金を提供することを約させたうえ、融通手形として、額面五〇万円、満期同年五月二五日、支払地東京都杉並区、支払場所株式会社富士銀行方南町支店、振出地東京都新宿区、振出日同年二月二五日付、振出人控訴会社、名宛人被控訴人なる約束手形四通、額面合計二〇〇万円を振り出し交付したこと、そして、その頃被控訴人は控訴会社に右二〇〇万円の借用証書とこれに押した自己の印の印鑑証明書を差し入れたが、同証書上、借主として、東伊豆観光開発株式会社は未だ設立されていないのに、その代表取締役の肩書を付けた前記岡本、その専務の肩書を付した被控訴人の各氏名を記載していたこと、しかし右記載にかかわらず、前記とおり融通手形の振出を受け、その支払資金の提供を約していたのは被控訴人であつたので、岩田も被控訴人のみからその印鑑証明書を徴していたこと、被控訴人は右四通の融通手形の内二通は他で割引を受けることができなかつたため同年三月頃これを控訴会社に返却したが、本件手形一通を含む他二通は、いずれも被控訴人が裏書をなし、本件手形は旭商会によつて、今一通は申請外杉江利雄によつて、それぞれ割引がなされ、いずれもその満期日である同年五月二五日に、前者は株式会社東海銀行亀戸支店を、後者は向島信用組合をそれぞれ持出銀行として交換呈示がなされたこと、ところが被控訴人は、これらの手形について満期までに控訴会社に支払資金を提供できなかつたため、控訴会社は契約不履行を事由に支払をなさず、右各手形が支払銀行である株式会社富士銀行方南町支店から各持出銀行に不渡返還されたが、右各持出銀行が東京手形交換所に不渡届をしたので、控訴会社は不渡届に対する異議申立預託金合計一〇〇万円を右支払銀行に預託し同銀行が異議申立をなしたことが疎明せられ、原審並びに当審における被控訴本人尋問の結果中これに反する部分は信用せず、ほかにこれを左右する疎明はない。

控訴人は、右本件手形不渡問題を解決するため被控訴人に本件小切手で本件五〇万円を貸与したと主張するが、《証拠》を総合すると、前記本件手形を含む二通の不渡手形は、結局被控訴人において資力がなく、これを買い戻すことができなかつたため、控訴会社が旭商会及び前記杉江とそれぞれ話合をした結果、前記各持出銀行の諒解を得て不渡届を撤回して貰つたうえ控訴会社が異議申立預託金の返還を受け、これによつて振出人として各手形金の支払をすることになり、東京手形交換所から前記支払銀行株式会社富士銀行方南町支店に対し、本件手形関係分の異議申立提供金五〇万円は同年六月六日返還され、即日同銀行における控訴会社の口座に入れられ、同月一日頃控訴会社が右話合により振り出し旭商会に交付されていた本件小切手一通の支払がなされ、本件手形は控訴会社が受け戻し、現にこれを所持していること、又、今一通の手形も同様に控訴会社が振り出し前記杉江に交付した小切手の支払により同月一四日決済され、控訴会社が同手形を受け戻し所持していたが、その後同手形は紛失したことが疎明されるのであつて、右事実によれば、控訴会社は本件手形所持人旭商会に対し本件小切手を交付し、その決済をすることによつて振出人として本件手形の支払をなしたに過ぎないことが明らかである。

したがつて、控訴人が被保全権利として主張する貸金債権は疎明がないことに帰する。

二、次に控訴人主張の不当利得返還請求権についてみるのに、前記のとおり控訴会社は本件手形振出人として本件手形の支払をなしたものであつて何ら法律上の原因なくして右支払をなしたものでないことは明らかであり、かつ又、被控訴人は、右支払により本件手形債権が消滅し裏書人としての遡求を受けることがなくなつても、控訴会社との融通手形契約上の債務までも右支払によつて消滅したものではないから何ら利益を受けたということはできない。

したがつて、右主張は主張じたい失当であり採用できない。

三、そして、本件被保全権利は保証をもつてその疎明に代えさせることは相当でないと認められる。

四、よつて、本件仮差押決定は失当であり、これを取り消したうえ、控訴人の本件仮差押申請を却下し、仮執行の宣言を付した原判決は相当であるから、本件控訴は理由がないので、これを棄却

(裁判長裁判官 柳川真佐夫 裁判官 横地恒夫 平田孝)

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